『寺院消滅』(鵜飼 秀徳 著)
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■25年後に日本全国の寺の3分の1が消滅する可能性が
古代に仏教が伝来して以来、日本人にとって寺院は身近な宗教施設として親しまれてきた。だが今、全国の寺院が存続の危機にあるという。本書は、そんな現代の寺院や僧侶、仏教をめぐる状況やそれに至る歴史等を、広範な取材により明らかにしている。
地方における寺院の衰退の主な原因は、人口減少だ。國學院大学神道文化学部長の石井研士教授は、2014年5月に日本創生会議が発表した、いわゆる「増田レポート」で指摘されている「消滅可能性都市」に宗教法人がどのくらい含まれるかを試算。その結果全法人の35.6%にあたる62,971法人が「消滅」するかもしれないことがわかった。つまり、約25年後には、日本の寺は現在の3分の2程度になってしまうのだ。
「寺院消滅」は実はもっと深刻だ。都市部の寺院にも危機は確実に忍び寄っているからだ。現在、全国に住職がおらず後継者も見つからない「無住寺院」は約2万ほど存在すると言われている。 -
■昔から変わらぬ僧侶の尊大な態度も「寺院消滅」の一因に
地方の人口が減少することで、檀家が減り、経営が行き詰まる、というのが典型的な寺院消滅のパターン。そうして「空き寺」が増えていく。都市部では、葬儀を無宗教で行い、墓も必要ないという人が多くなってきている。そんな中でも、今も昔も変わらず寺の住職が檀家に対して「上から目線」で尊大な態度を取ったりする。そのせいでますます檀家が減るという悪循環が生まれている。
東京都国立市にある日蓮宗・一妙寺の33歳の住職・赤澤貞槙さんは、サラリーマン家庭の出身。中学3年の時に仏道に入る決心をし、日蓮宗の開教制度を利用して寺を開いた。
赤澤住職は「感動的な葬儀」を行うことで評判になった。仏事こそが一般社会と僧侶をつなぐ大事な接点ととらえ、葬儀に、心のこもったさまざまな工夫をこらした。そんな赤澤さんの気持ちが通じ、葬儀に感動した住民たちから高い信頼を得られた。そして貯まったお布施を元手に、自前の寺を開くことに成功したのだ。 -
◎著者プロフィール
「日経ビジネス」記者。1974年京都市右京区生まれ。成城大学卒業後、報知新聞社に入社。事件・政治担当記者を経て、日経ホーム出版社(現日経BP社)入社。月刊誌「日経おとなのOFF」などのライフスタイル系雑誌を経験。2012年より現職。これまでの社会、政治、経済、宗教、文化など幅広い取材分野の経験を生かし、企画型の記事を多数執筆。近年は北方領土問題に関心を持ち、現地での取材も実施している。正覚寺副住職。