『名物・金庫番が解き明かす 3つの近未来』(領内 修 著)
-
■「金融」「デジタル社会」「組織」について5~10年後の近未来を占う
2008年のリーマンショックは、世界の金融・経済のみならず、政治や社会意識にも大きな影響を及ぼしたといえる。本書の著者は、企業のCFO(最高財務責任者)としてリーマンショックに直面し、その頃から社会や文化が根底から変化し始めていることを感じたという。本書では、そうした感覚と経験、知識をもとに、「金融」「デジタル社会」「組織」の3領域について、2020年から2025年までの“近未来”を考察している。
「金融」については、リーマンショックの原因を分析し、近未来の可能性にCFOとして警戒、対策すべき点が述べられる。金融崩壊以来、コマーシャルペーパー(CP)市場と外国為替市場が正常に回復していない。近い将来には、収縮したCP市場を補う短期新商品が登場し、不特定多数が市場取引に参入することから外国為替市場の混乱は続く。著者は、変化をいち早く察知し、手厚いキャッシュ化を図っておくことを提案している。 -
■近未来型の組織は、ゆるやかな提携による「階層別ハチの巣型」
「デジタル社会」については、とくに仮想通貨のビットコインと、音声合成ソフト「初音ミク」が取り上げられている。これらの新技術は、金融・通貨、音楽文化いずれにも大変革をもたらす。それらはいずれもスタンドアローンでは成立せず、“つながり”を前提とした社会を象徴するものなのだ。
「組織」の領域では、従来の「ピラミッド型」や「文鎮(フラット)型(オーケストラ型)」の欠点や限界を補う近未来型の組織形態として「階層別ハチの巣(ハニカム)型組織」を紹介している。
この組織形態では、それぞれの階層がハチの巣のような構造になっている。そのため命令系統が上下ではなく横依存となり、ゆるやかな提携関係でメンバー同士が結びつく。それぞれの階層は専門家やプロが形成し、情報は瞬時に、階層の壁を越えて縦横無尽に行き渡る。リーダーには全体観と的確な方向づけ、スピードの緩急をつけた臨機応変な指示などが要求される。 -
◎著者プロフィール
SCREENホールディングス副会長。1951年生まれ。早稲田大学卒業後、旧東京銀行に入行。84年米国の子会社に勤務。90年帰国。旧東京三菱銀行で理事公共法人部長を最後に、2004年大日本スクリーン(現・SCREENホールディングス)に転籍。2008年に起きたリーマンショック時に、最高財務責任者(CFO)として尽力。2014年米国の権威ある金融誌「インスティテューショナル・インベスター」でベストCFOに選ばれた。