『なぜゴッホは貧乏で、ピカソは金持ちだったのか?』 (山口 揚平 著)
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■企業や個人が信用をもとに「お金を発行する」時代
ゴッホと違いピカソが経済的に成功したのは、彼がお金の本質を見抜いていたからだ。例えば、ピカソは少額の支払いでも好んで小切手を使った。商店主は、有名なピカソのサイン入り小切手を、銀行で現金に換えずに、大事にしまっておくからだ。ピカソは実質的にタダで買い物ができた。彼は自分の名声をいかに多くのお金に換えるか、つまり、現代の金融でいう信用創造、"キャピタライズ"を熟知していたのである。
本書は、この数年で大きく変化しつつあるお金の本質を解説している。キーワードは「信用」だ。お金そのものの信用を担保しているのは、現在では国家だが、最近では、企業や個人も、自らを信用の母体としてお金を発行できるようになった。例えば、家電量販店発行のポイントは「企業通貨」である。個人の信用も、客観的に評価されれば、お金に換えることができるだろう。このような社会では、人々はみな「上場」しており、「株価」がついているようなものだ、と著者は指摘する。 -
■お金より自らの価値や信用を創造することの大切さ
企業や個人が信用を持ち、独自の「通貨」を発行する可能性が出てくると、お金という結果よりも、信用という原因のほうに人々の目が向くようになる、と著者は主張する。このため、個人として自ら価値や信用を創造することが、いっそう重要になる。
では、信用はどのように創られるのか。デービッド・マイスターは、「信用度=(専門性+確実度+親密度)/利己心」と定義している。専門性を高め、約束を守り、親しい関係をつくり、「利己心」つまり私欲(エゴ)を減じていくことが、信用の創造につながる。しかしこの式からわかる通り、このうち信用度に特に貢献するのは、分母である私欲を減ずることだ。エゴを減じ、謙虚さを養うことが信用を築くうえで最も重要なのだ。しかし信用は繊細な磁器のようなもので、買うときは高いが簡単に壊れる。そのために著者は、個人も企業と同様、信用の残高を意識し、メンテナンスすることが必要だと説いている。 -
◎著者プロフィール
早稲田大学政治経済学部卒。1999年より大手コンサルティング会社でM&Aに従事し、カネボウやダイエーなどの企業再生に携わった後、独立・起業。企業の実体を可視化するサイト「シェアーズ」を運営し、証券会社や個人投資家に情報を提供、2010年に同事業を売却後、2012年に買い戻した。現在はコンサルティングなど複数の事業・会社を経営する傍ら、執筆・講演を行う。専門は貨幣論・情報化社会論。