『寿命100歳以上の世界』 (ソニア・アリソン 著/土屋 晶子 訳)
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■人類の長寿化によってもたらされる明るい未来について多面的に論じる
「健康で長生きすること」は人類共通の願いと言っていいだろう。実際に医学の進歩や生活環境の改善によって人間の平均寿命はこれまで格段に延びてきており、将来、人類は150歳まで生きることも可能になるという。本書では、長寿化を肯定的に捉える著者が、食糧・資源の枯渇やバイオテクノロジーの倫理的側面を危惧する研究者たちに反論をしつつ、長寿化によってどんな未来がもたらされるかを多面的に論じている。
長寿社会になることにより世界の人口が増え、深刻な食糧不足や環境汚染がもたらされることに警鐘を鳴らす専門家は少なくない。それに対し著者は、人間が増えれば、そうした問題を解決するためのアイデアも多くなるはずだと述べる。また、遺伝子操作による長寿化を「人間性を奪うもの」として批判する声に対しては、遺伝病の原因遺伝子を取り除くことと倫理上なんら違いはない、と論理的に反証している。 -
■高齢者があきらめずに新しい人生の段階に入ることが社会の発展に結びつく
平均寿命が延びることによって、人間の発達段階にも変化が生じる可能性がある。その一つは、すでにその傾向は現れているが、青年期と成人期の間に「大人未満期」とも呼ぶべき新たな段階が生まれること。それは若い人が大人になりたがらないわけではなく、大人になる道が多種多様になっていることの表れだ。すなわち、これまでは就職などで横並びで大人になっていたのが、教育を受けるのと働くことを交互に行う、あるいは同時に追い求めるなど、人によってさまざまなスタイルを選択する余地が出てきているということだ。
もう一つは、高齢者が新たな人生の段階に入ることだ。多くの人がこれまで「もう歳だから」とあきらめていたことができるようになる。たとえば、学者がもう一度新たな研究成果を上げる、法律家と医者などの複数の専門キャリアを追い求める、などだ。つまり、長寿化は社会のさらなる発展に貢献することができるのである。 -
◎著者プロフィール
カリフォルニア州マウンテンビューにある「シンギュラリティ大学」の創立メンバー、アカデミック・アドバイザー、理事。パシフィック・リサーチ・インスティテュート(PRI)の上席研究員、ネットメディアTechNewsWorldのコラムニストも務める。メディアにしばしば寄稿するほか、CNN、ロサンゼルスタイムズ紙、ニューヨークタイムズ紙、ウォール・ストリート・ジャーナル紙などでその研究が紹介されている。