『人と企業はどこで間違えるのか?』 -成功と失敗の本質を探る「10の物語」(須川 綾子 著)
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■ビル・ゲイツが「最高のビジネス書」と評価する企業物語のアンソロジー
産業革命から、株式会社を中心とする資本主義経済が確立して以来、それぞれの企業が辿ってきた歴史のなかには、数々の成功および失敗のストーリーがあふれている。本書は、企業および企業を舞台に活躍した人々による10の物語を集めたアンソロジーで、収められているのは主に1950年代から60年代に米国で起きた実話である。2014年の夏にビル・ゲイツ氏が「最高のビジネス書」として紹介したことで注目を集めた。
第1章「伝説的な失敗」では、自動車メーカーのフォード社の歴史的失敗の原因を探っている。1957年同社は新車「エドセル」を売り出した。だが、販売台数は悲惨な結果に終わった。
失敗の理由として、マーケティングに組織の都合や個人の思惑が反映されてしまったことに加え、市場投入のタイミングが悪かったことが指摘されている。製造が決まってから発売までの時間が長すぎたため、時代の空気や消費者のニーズが変わってしまったのだ。 -
■GEの関与した不祥事に裏には、不完全な社内コミュニケーションが
第5章「コミュニケーション不全」は、米国最大手電機メーカーGEが主導した談合入札と価格協定の不祥事の原因を追っている。同社のコンプライアンスに機能不全を起こさせた社内のコミュニケーションの齟齬がテーマだ。
不祥事に手を染めたウィリアム・ジンの上司だったロバート・パクストンは清廉潔白な人物だったが、部下へのコミュニケーション能力に欠けていた。ジンはパクストンの命に背き、別の二人の上司、ヘンリー・アーベンとフランシス・フェアマンによる正反対の命令に従った。この二人は、ジンによれば「コミュニケーションの達人」だった。
後に副社長に昇進したジンは改心し、不祥事からは足を洗った。だが、今度は彼の部下が価格協定に関わっていた。ジンがその部下に対して不正行為を禁じたにも関わらず。
ジンは「何度も繰り返し命令するだけでは不十分。『なぜ法に従うべきなのか』という経営理念を説いて聞かせるべきだった」と反省している。 -
◎著者プロフィール
1920年生まれ、1993年没。雑誌『ニューヨーカー』で金融経済関係を専門とする記者として長年勤務したほか、フィクション・ノンフィクションの両分野で多くの著書を残した。『マネー・ボール』や『世紀の空売り』などのベストセラーで知られるマイケル・ルイスは「ブルックスは間違った認識をするときでさえ、少なくとも面白い間違い方をする」と評し、影響を受けた作家だと称賛している。